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俺は静寂に満ちた屋敷内の安全を確認するべく、隠し部屋を出た瞬間ーー。
見知った部屋は一変していた。
白いカーテンや壁が、どす黒い赤色に変わり‥‥カーペットから生臭くも濃厚な鉄臭い匂いが立ち込める。
そして家族と見知った人達の変わり果てた姿....。
「お兄ちゃん..?」
後方より、不安そうな凪沙の声が響き渡る。
「見ちゃ駄目だ!」
俺は慌てて、まだ幼い妹の凪沙の視界を抱き締める事で覆い隠す。
恐怖と悲しみの入り雑じった感情が吹き出し、俺の手を震えさせる。
俺は、その事を妹に悟らせまいと即座に震える右手を左手で押さえ付け、妹を力強く抱き締めた。
それより数十分後、俺は漸く冷静さを取り戻し目の前の状況に対処したのである。
こんな状況でありながら俺の心は信じられないくらい冷静だった。
警察が来るまでに数分。
その間、俺は妹の凪沙に現場を見せないように努め、警察の事情徴収が終わった後に改めて事実を告げた。
父と母はもう居ない事をーー。
凪沙は泣きながら「どうして?」を何度も繰り返したが俺は凪沙をなだめながら「遠くへ行ってしまったんだよ」としか答えられなかった。
それより数ヶ月後、九恩慈家の資産を相続した俺は何故、皆が殺されなければならなかったのかーーその理由を知るべく、九恩慈家専属の弁護士たる滝平【たきひら】を通して探偵を雇う。
金庫に入っていた人名と住所がリスト化された黒いノート。
恐らく、これが関係している....。
俺はそう直感し、リストの人物一人一人を探偵に探らせた。
だが、そんな軽率な行いが最悪な事態を招く事になる。
弁護士の滝平【たきひら】が、家族と言うべき人達を殺した奴らに通じていたのだ。
その後、妹の凪沙が拐われ..俺は、ある人の助けにより難を逃れたのだが....。
その結果、俺は全てを失った。
そして今、俺はーー。
ーーーーーー
(後悔しているとでもいうのか、この道を選んでしまった事を?
何を今更....俺には、この道しかなかったんだ。
くだらない感傷だな、さっさと済ませてしまおうーー。)
俺は僅かな酔いを引き摺り、狩るべき対象の屋敷へと足を踏み入れる。
巨大な邸内。
人の気配だけを探ってみたが、少なく見積もっても四十人以上は居るだろう。
(かなり訓練された手練ればかりのようだな。
まともに、やり合ったら厄介この上ないがーー。)
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