不幸なヤツ程良く笑う

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俺は呼吸を整え、気配や動きの全てを無に近付ける。 直後、俺は周囲の空気に溶け込んだ。 朧流歩法術・消映【しょうえい】 それは周囲の空気に紛れる侵入歩行技術。 この技術により、卓越した技量を有する護衛者のみならず、監視カメラすらも欺けるのである。 何時も如く、俺は気取られる事なく護衛者の側を素通りし、軽やかな風の様な足取りで殺すべき対象の居どころへと向かう。 足跡すら残らないのだから、奴らが異変に気付くのは恐らく、全てが終わった後に違いあるまい。 ターゲットの居場所を知っていた訳ではないが、俺には何となく、その居どころが分かっていた。 そう認識させたのは、緊張感のある護衛者達の気配と、そして周囲に粘りつく様な不快なる空気である。 性根の腐った外道程、臆病かつ狡猾ーー。 故に身の回りの警備を、厳重にする事は必定であろう。 (今まで弄んできた者達の命と、凪沙の命を奪った分、しっかり償ってもらうぞ。) 俺は歩きながら、金属の三角定規をジャケットの内ポケットから取り出す。 扉の前には銃を所持した三人の護衛者が居る。 単純な隠密行動ならば、厄介この上ない。 だがーー。 俺は一番手前の黒服の後方へと素早く回り込み、脛椎へと三角定規を差し込む。 それと同時に俺の定規に塗り込められた毒が護衛者の神経を麻痺させる。 彼らが絶命するまでに一秒とかからなかった。 三人の護衛者達は異変に気付く事もなく、音もなく崩れ落ちる。 俺は静かに彼らが崩れ落ちる姿を見据えた。 彼らの命を奪う事に何の躊躇も無い。 そして、そんな彼らの姿を見ても心は穏やかだった。 畜生にも劣る外道に平然と雇われている輩に、かける情けなどあろう筈もない。 だが、俺に彼らを非難する資格はなかった。 何故なら俺も人の命を奪って糧を得ている人でなしに他ならないのだから。 俺も彼らと同様、何時かは償うべき時が訪れるのだろう。 だが、それは恐らく今ではあるまい。 俺は無造作に扉を開け、一陣の風の如く体を滑り込ませる。 部屋の中には銃を構えた六人の護衛者。 しかし六人の護衛者達は俺の姿を認識出来ず、不思議そうに扉へと銃を向ける。 当然だった。 扉がひとりでに開くなど普通に考えて、有り得ないのだから。 俺は即座に一番後方で銃を構える護衛者の背後へと回り込むと、脛椎に三角定規を突き立てた。
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