不幸なヤツ程良く笑う

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護衛者達を始末し終えた俺は、周囲を即座に確認する。 だが、肝心のターゲットである講堂【こうどう】の姿が無い。 (奴は何処だ?) 俺は目をつぶり、耳に意識を集中する。 静寂の中に響く、下卑たる歓喜の声と悲痛なる叫び。 (なるほど..地下か。) それは足下の底より響くもの。 講堂が地下にいる事は間違いない。 (だが、地下に続く入り口は何処だ?) 俺は周囲を用心深く確認する。 そして、不自然に壁際に設置された金属製の美術品が目に止まった。 苦悶に満ちた全裸の少女と少年の像。 その像を注意深く見据えると、少年の右手首に僅かな溝が確認できた。 恐らく、これが地下に入る為の仕掛けに他なるまい。 俺は少年の像の右を手前に捻った。 その直後、ほぼ音もなく像はスライドし地下室への入り口が現れる。 ほとんど音もしない状況。 それは余りにも無防備過ぎた。 地下室で何をしているのかは分からないが、ロクでもない事をしてるのは間違いない。 ならば、もっと敏感に対応する筈なのだが..。 だが、耳を済ましてもアラーム音一つ聞こえない。 厳重な警備態勢に油断しての事なのか、それとも集中する事が最優先の何かがあるのか....。 この先に何があるのかは分からない。 だが俺に、進む以外の道はなかった。 俺は周囲を警戒しつつ、ゆっくりとした足取りで石造りの階段を下る。 僅かな灯りが周囲を映し出す。 階段も壁も元々は白のようであるが、今や黒ずんだシミで薄汚れていた。 それに妙に鉄臭く、生臭い臭気が充満している。 (これは血のシミか....。) 俺はかぎ慣れた匂いを辿りながら、階段を下り続けた。 階段を降り始めてから一分程経過した頃、不意に耳障りな笑い声が響く。 俺には、即座に分かった。 それが講堂の声だということがーー。 いや、忘れる筈もない。 凪沙の命を弄んだ外道の声なのだから。 俺は、三角定規を構えて階段を下り終える。 (予想はしていたが、まさかこれ程に酷い惨状とはなーー?) 手足がもぎ取られ、苦悶の表情を浮かべる少女や眼球を抜き取られた少年。 肛門から腸を引き摺り出され、ソーセージのようにぶら下がっている少年や少女。 水槽で上半身だけの状態で、生かされている年端もいかぬ子供達ーー。 酷い惨状の例をあげたら、切りがない。
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