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あらすじ
目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。体が痛い。階段の段差を枕代わりに不思議な体制で寝込んでしまった僕の体は冷たく冷え、凝り固まっていた。四方をビルに囲まれた夜の暗闇の中で、僕は時計を見る。深夜二時。これから果たしてどうしたものか……
そもそも僕が階段の踊り場で目覚める事になったのには訳がある。あいつが変な事を言い出すからだ。
「オマエ、殺されるかもよ」
僕は上京して初めて住むシェアハウスのルームメイトが少し変わっているという相談を故郷の友人にしただけなのに、どうしてそんな目に遭わなくてはならないのか。
「忍者の秘密を外に漏らした者は……」
死あるのみ。あいつはいつもの面白半分で僕をからかったつもりだろうが、言われてみれば確かに。僕以外の住人がみな忍者であると信じるに足る事象がこれまでいくつもあった。
やつらは僕のいないところではいつも僕にはわからない謎の暗号を使って会話をしているし、彼女はいつも僕に気付かれる事なく帰宅して、いつのまにやら僕の知らないうちに外出している。管理人さんは何故か僕の事をなんでも知っていて、僕が困った時には音もなく現れては助けてくれる。
間違いない。みんな忍者なのだ。
そう考えれば全ての辻褄が合う。そうであるとすれば僕がここであいつと電話していた事も、そして、僕がみんなの正体に気づいてしまった事も。決してみんなに悟られてはいけない。その瞬間僕を待つのは……
死あるのみ。
いっそこのままこのシェアハウスから逃げ出すか。いや、相手は忍者。そんな事をしたってすぐに足がつく。やっぱり僕は自室に戻るしかないのだ。ここで電話をしていた事も、なにもかもみんなに気付かれないように。そっと、静かに。
僕の足は震えている。それを寒さのせいだと言い聞かせて、僕は大きく深呼吸をした。ドアノブを握る手は外の寒さとは裏腹、汗でじっとりと湿っている。
やるしかない。意を決して僕は扉を開けた。
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