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それこそまだ兄に監禁され、何もする事のできなかった自分が自分を壊すために作り続けたからくり人形のひとつであったのだが、何故ここにそれがあるのかグノーには分からなかった。
「これ、昔私があなたに貰った物なんですよ」
「え?」
グノーはクロードをまじまじと見るが、こんな男に心当たりなど無かったし、そもそもこれを作っていた頃、自分に声をかける相手すらいなかった。そんな事はありえない…と思った刹那、ふと思い出される記憶がひとつ。
「あの時あなたはグノーシスと呼ばれていた」
「お前『お人形ちゃん』か?」
「その呼び名、懐かしいですね。さすがにもう、そう呼ぶ人はいなくなりましたよ」
それはまだ兄の束縛が始まったばかりの頃だった。
その日は近しい親戚の結婚式で、それでも王の息子として数の中に入っていた自分はその式に出席することを余儀なくされていた。
その中に『お人形ちゃん』はいたのだ。
結婚式とは名ばかりの立食パーティ、しょせんは政略結婚のお披露目会だ、知り合いすら1人もいない自分には何も楽しい事などなかった。
『私の可愛いお人形ちゃん、あなたに会えなくなるのは悲しいわ』
そう言って花嫁は泣いていた。恐らく彼は花嫁の近親者だったのだろう。だが、その時も彼は今と同じく何も感情を持たないような無表情だった。
花嫁から解放された彼は完全に壁の花になっていた自分の方にやってきてその横に並んだ。
そもそも歳の近い人間がほとんどいなかったのだ。
だが、彼は隣に来ても何を言うわけでもなく、ただ自分の横に立っていた。
兄に他人と話すことを禁じられていた自分から声を掛けることもできず、2人はただぼんやりとそのパーティを眺めていた。
それでも彼が気になった自分は彼を盗み見る、彼は本当に整った人形のような顔で少し怖くなった。
自分が作っているからくり人形を精巧にしたらこうなるのだろうか、と思うほどに彼には感情というものが読み取れなかった。
もしかしたら自分もこんななのかな、彼も自分と同じような人間なのかな、となんとなくそう思ったのだ。
「あの…」
「グノーシス!」
意を決したように声を掛けようとした所を兄に見咎められた。
兄はこちらに来いと自分を手招く。それは絶対命令で自分に拒否権などない事は周知の事実だった。
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