運命との出会い

2/26
1435人が本棚に入れています
本棚に追加
/301ページ
どこかから微かな甘い薫りがする、どこから薫ってくるのかと首を捻り辺りを見回すと、一緒にいた同僚に不審げな顔を向けられた。 そこは、街から街へと続く街道の一本道。首を捻った男は大柄な体躯で、身長は見上げる程に大きく威圧感がありそうなものだったが、彼の表情は柔和で「何かあったか?」と尋ねた同僚にまるで威圧感のない笑顔でへにゃりと笑った。 「いえ、何ということはないのですけど、何かいい匂いしませんか?」 同僚はその言葉に首をかしげ、鼻をくんと鳴らす。 「なんの匂いも感じないがなぁ…」 そんな事はないと思うのだ、確かにほんの微かな匂いなのだが、その薫りは自分の好きな匂いだった。 「腹が減りすぎてんじゃないか?食い物の匂いでも嗅ぎ付けたか?」 別の同僚に、そんな風にからかわれ更に首を捻った。 確かに薫りは甘いのだが、食べ物の匂いではない。どちらかといえば薔薇の匂いたつような甘さなのだが、自分意外にその匂いは感じとれてはいないらしい。 あぁ、これはもしかして…と首をふり、やはり気のせいみたいですと男は彼等に笑みを見せた。 元来自分は鼻が利くのだ。それは普通に鼻が利くのも勿論だが、ある種特殊な人間の匂いを嗅ぎ分けてしまうという能力だった。 恐らくそんな体質を持った自分自身も相手方には気付かれている、それはこういった特殊な人間を嗅ぎ分けるという能力と言ってもいいかもしれない。 能力的には役に立つものではないし、相手がどんな人間なのかも分かりはしない、だが稀にいるのだそういう人が。 彼の名はナダール・デルクマン。ここランティス王国の騎士団員で今は同僚と一緒に城壁外の近隣の街を周り最近ここいらで頻発している事件の調査にあたっていた。 彼の風貌は言ってしまえば大男だ。身長は190を超えている、だがしかしそんな大きな体躯にもかかわらず表情はとても穏やかでいつもニコニコしているのでまるで威圧感がない。 がっちりはしているが横にはさして大きくないので、どちらかと言えばひょろりとした印象である。 金髪碧眼のその容姿は騎士団員といういかにも肉体派といった職業にはあまり向いていないのではないかと思ってしまうくらいの優男ぶりで、かといって軽薄な感じはまるでなく、ある種独特な空気を纏った男だった。
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!