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夜の街を二人で歩く。週末のこの時間、浮かれた客たちを誘い込もうとするビル群は、我を我をとギラギラした照明を輝かせていた。
センスの欠片も無い蛍光色の嵐に、思わず倒れそうになる。世の中のデザイン物の九割九分はクソみたいなものである。別に美しいものなど求めるつもりはないが、あまりにえげつないものを見ると思考を停止させれそうになるので、目の毒だと思う。
しかし、「疲れていた」だの、「都会のネオンが」などは玲香にとっては関係無い。俺は冷静になると、スマートフォンを取り出し玲香にメールを送った。『クライアントから急遽修正指示が来た。今日は帰れそうもない』。
アコは不意に俺の手にしがみつくと、スマートフォンを奪い取る。
「むむっ! 奥さんに連絡ー?」
「そう」
「指輪しないんだね。独身かなあと思った!」
「……キーボードを打つ時に気になるんだよ。いつか慣れるかと思って付けたこともあったけど、一週間も持たなかった」
アコがスマートファンを返してくる。彼女はずっと表情を変えず、にこにことしている。
アコが先程、一瞬だけ俺の左手に視線を向けたことには気付いていた。こなれている。そして配偶者がいることを知っても動揺しないところを見ても、やはりこなれている。後腐れのない関係にはぴったりだった。
玲香から、すぐに『分かりました。体調には気を付けて』と返信が来る。
わざとらしい内装のラブホテルは好きではない。適当なビジネスホテルを選び、俺たちは中に入った。
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