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若者が集まるこの街は、休日ということもあり人がごった返していた。
奇抜なファッションをした人々の群れの中で浮きながら、坂を登っていく。パンケーキの店の行列やテレビの街頭インタビューを受ける女性を横目に、俺たちは進んだ。
目的地までは、ここから歩いて十分程度だった。
真夏の太陽光が降り注ぐ中、汗だくで歩いていると不意に翔が呟いた。
「圭さん。前に言ってたアドバイス実行してみたんすけど、やっぱり断られました。これで八回目」
不満そうな顔をこちらに向ける。そんな顔をされても俺はどうしようもできない。眉根を寄せつつ答えた。
「そうか? 軽井沢なら乗ってくると思ったんだが。玲香はテニスが好きだし……。ちゃんとテニスしましょうって言ったのか?」
「言いましたよー。テニスには食いついてはいましたけど……結局断られました。もう、圭さんの言うことは当てにならないっす。……でもなんか、あと一押し感はありますんで、ちょっと近場で誘ってみます」
翔は今、玲香にアプローチしている。
俺のことについて相談を受けるうちに、玲香のことが好きになったらしい。でも翔は、玲香と俺の離婚が成立するまでは何も動かなかったと言う。俺はどちらでも構わないが、真面目な翔のことだ。その言葉はきっと本当なのだろう。
玲香は翔のひとつ歳上だった。話に聞くと、翔は元から歳上が好みらしい。アコのことを気に入っていたように見えたが、通りで靡かないはずだった。
「はあ、もう夏なのに俺の春はまだ先だなあ」
「あ、ここだ。着いたぞ」
大通りを曲がり、小さな路地を少し進んだ先。
カフェと併設した、小さなギャラリーがあった。
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