私が死ぬということ

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時々夢を見る。家族が死んだときの夢。祖父、母、父、兄、そして妹。 私だけが生きているという罪悪感。苦しい。押しつぶされる。そんな夢。もう楽になってしまいたかった。 けれど、目が覚めてもその苦しみは私を襲い続ける。 「だから同じように殺されたい?」 私は静かに頷いた。彼の次のターゲットは知っていた。怖くはなかった。 「それは、とても辛かっただろうね。今日はもう休むといいよ。無理に話をさせて悪かった」 そういうと彼は、席を立ってそのまま伝票を持ちレジへ向かうと店を出た。 取り残された私はしばらく本を読んだ後、彼と同じように店を出た。 帰宅するために駅へ向かった。静かな道を歩きたくて、人気のない道を選んだ。 誰もいないと思っていた。けれど、空き地の街灯の下に"彼"はいた。 「もう少し話さないか?」 私に拒否権などあるはずがなかった。 「"アレ"はとても美しかったんだよ。この世のどんなものよりも。僕はあの日から"アレ"の美しさに囚われてしまった。もしかしたら、君なら僕の考えていることが理解できるんじゃないかと思った。何故今、こんな話をしているのか分かるかい?」 「えぇ。分かるわ。今から私は、あなたのいう"アレ"になるのでしょう?」 「驚いていないみたいだね」 だって最初から知っていたんだもの。私がこうなることを望んだんだもの。後悔なんかしていない。きっと彼はこれからも1人で生きていくのだろう。彼もそれを望んだ。後悔してはいけない。 なんだか楽になった気がした。救われた気がした。こうなることで私は、幸福なのだ。 果たして、彼にとっての幸せの定義とは何なのだろうか。 「バイバイ。×××」 結論は出なかった。結局私は、彼を1人の世界から救い出すことはできなかった。それでも私は… 「ありがとう。**」 薄れゆく意識の中で、私は彼の頬にしずくが伝うのを見た。 ーなんだ、人間らしいこともできるじゃない。 と、私は微笑んだ。
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