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私の幸福論
隣に座っている青年を、私は見たことがある気がした。どこかですれ違ったとかそういうたぐいのものではなく、彼の思考をよく知っている気がした。本を読んでいるため、顔を伏せており髪で表情はよく見えなかった。
「何か俺に用?」
顔をまじまじと見てしまっていたらしい。急に声をかけられて戸惑ったものの、すぐに冷静さを取り戻した。
「いえ、何でも。ただ、何を読んでいるのかと思って」
「この本?友達に借りたんだけどさ、『幸福論』っていうよく分かんないやつ」
彼が顔を上げたとき、あのときの人だとすぐに分かった。きっと彼が……
「その本、次貸してくれないかしら」
「構わないよ。一応友達にも聞いてみるよ。君、名前はなんて言うんだい?」
私は答えたけれど、初めて聞いた名前だったようだ。話したことも、目を合わせたこともないのだから仕方がない。
「俺は**。よろしく」
こうして私は**と出会った。
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