ある魔術師の語り

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 これに心を痛め、遂に王女は処刑台に立つ決心をする。母にも語らず、ただ魔術師と騎士にのみ心の中を打ち明け、みすぼらしい布をかぶって、死刑囚に混じって断頭台に立った。この時の死刑囚の数は王女を含め七人。布を頭に被せられ、見物人たちは誰もそれを王女とみしらなかった。  さて、王女は遂に首を断ち切られた。王女は七人のうちの二番目に首を断ち切られたために、この日を一週間のうちの二日目、月の日、死者の為の日と名付けられた。 ところで、これは重大な契約違反であった。死者の魂を返す代わりに、術者は必ず神か、自らの手で命を落とさなればならなかった。  死刑囚は数日布をかぶせたまま市井に晒され、人々から侮蔑を持って見られたが、王女の首を通じて恐ろしき呪詛が流れた。それは死者の国の王の言葉であり、これを受けた警察の騎士が首の布を取って、初めてこの首が王女のものと判明した。  しかし、呪いの言葉はすでに王国に流れいで、数々の戦乱に流れた血が、恨みのある魂が蘇り、生者すべてをむさぼりつくし、結果魔術師と騎士のみが残り、これに満足した死者の王は、土で王女の体をこねて作り、もはや土に帰ることも出来ないように水で固めて店の光の届かないところで固く乾かした。  斯様な体となった王女と従者は今もどこかをさまようと伝われど、その真なることろは伝わらず、ただ死者のための日にのみ姿を現し市井にその姿を晒すとのみ言われる。  これが、かの荒れ地に伝わる伝説である。
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