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時は下り、数多の王が平穏のうちに眠りにつき、いずれの御時にか、一人のおなごが女王が腹から産み落とされた。優しき父と、優しき母に囲まれ、王女は優しき人に育った。また、王女は類稀に美しく、王国の内と外に聞こえ、幼き時よりあまたの求婚者が是非にとの手紙を認めるほどであった。
さて、王女には一人の従者がいた。謹厳実直にして質実剛健。その武勇は国の内外にも響き渡れど、その知もまた侮ることのできない男であった。決して貴き身分の出ではなけれども、その抜群の噂は王の耳にも入り、やがて宮仕えの騎士となったのだった。
決して飾らず、決して負けず、決して驕らず、命じられれば、はいと応え、これを違えることなく努めを果たした。その実直を買われ、王から王女に仕えよと命じられ、御意のままにと応え彼の勤めが始まった。
さて色ごとに疎いかの従者なれども、王女の美しさに気取られ、最早他の女は気にも止まらぬようにもなった。また王女も、従者の実直な姿勢に尊敬を覚え、いつしか熱い思いに変わった。しかし王女と従者という関係を越えることは、永劫に叶わぬこと。知に富んだ二人だからこそ理解していた。
さあ時は流れ、従者が死んだ。烈しいがあったとも、病に伏したとも、また二人の思いに気づいていた誰かが暗殺したとも伝わる。王女は思いを伝えられなかった事を悔い、深い悲しみに暮れ、十日十晩泣き臥せったという。王も女王も国民も、これを嘆き悲しみ、まるで太陽の落ちたような日々が続いた。
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