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ある魔術師の語り
知っているか、あの荒れ地を。知っているか、かの王道楽土の夢の跡を。知らぬと言うなら語り聞かせよう。かの王国の運命を分かった愛の話を。一人の王女と騎士の話を。
もはや語るものもなく、名も時も忘れ去られ、ただ荒れたかの地にはかく物語ありきと伝えられるのみ。
かの王国は武の上に建った。魔術に侵された前王を、武によってその首素っ撥ねて光輝なる王道楽土を建てたのだ。輝かしきかな王国よ。民草は笑い、貴族は民を導き、全てその膝下で王を讃えた。風や草花や、家畜でさえもかの王国の輝きを歌にして詠み上げたほどだ。
初代王は前王国を腐敗に追い込んだ魔術のたぐいを禁じた。強き魔を誇る国であったが、それ故に驕り高ぶり、恐怖による政治を敷いたからである。これよりは正しき武によって悪を捉え、正しき知によって行く末を見極め、正しき心によって全地を納めると王は全て国民に宣言した。
ただし、魔によってのみ解決できる問題が起こったときのために、王一代にただ一人の宮廷魔術師を置くのみとして、その他の魔術の行使を禁止した。
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