序段:神社の男の子との約束

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序段:神社の男の子との約束

 安産祈願のための水天宮が、どうしてこんなに長い石段の上にあるのでしょうか。  義兄と二人で両側から身重の姉を支えるようにして一歩一歩、神社への石段を上がる。 「大丈夫?お姉ちゃん。少し休もうか?」  姉の息が少し上がってきていたのでそう言うと。大丈夫よ、もう少しだから。と、笑顔を見せる。 「じゃあ、受付を済ませて来るから…… あそこのベンチで休んでて」  石段を制覇すると鳥居の向こうに立派な神社が見える。右側に社務所があって、その軒下にベンチがある。  義兄が社務所へと向かったので、私は姉をそこに座らせて昇って来た石段の下界を見下ろす──  直線的で近代的な海岸線ではあるものの、遠くに海を見渡せる綺麗な場所。この神社がある山の緑も、若葉が一番映える季節。  私はひとつ、大きく深呼吸をする。  その時。  和装の男の子── 白っぽい衣装で、思わず「卑弥呼様ぁ!」と叫びたくなってしまうような髪型の、小学校に上がるかどうかくらいの子が私の足元に現れた。  七五三?にしては季節外れよね。男の子はキョロキョロと誰かを探しているみたいだ。 「どうしたの?坊や」  私は膝を折ってしゃがみ、男の子に目線を合わせて訊ねる。 「母上はいずこじゃ。母上がいなくなってしもうた」  なになに?ドラマか映画の撮影?  でも、この男の子。何か只ならぬ雰囲気を持っていると言うか、後光が射していると言うか……  やっぱり。きっと有名な子役で、それなりのオーラを放っているのかも知れない。 「神社のほうに、行ってみた?」  男の子はブンブンと首を横に振る。 「あっちに行ったら、お母さんいるかも知れないよ」  私が神社のほうを指差して言うと、うむ。と頷いて男の子は走って行く。 「転ばないように気をつけてね~」  手を振って男の子を見送り、ベンチに座る姉の元へと戻る。 「誰と話をしてたの?」  姉の質問に、白い着物を着た小さな男の子がいたじゃない。って言おうとした時に。社務所から義兄が戻って来たので言わず仕舞いになってしまった。 「順番、次だからすぐだよ」
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