147人が本棚に入れています
本棚に追加
/312ページ
「そこでだ、橘似。今日ここで会ったのも、御館と基成殿の話を聞いたのも何かの縁。俺の代わりに京へ行って、常盤の子を誘拐って来てくれないか」
は?
「『金売り』なんて表の顔よ。裏じゃあ、『人売り景光』って呼ばれてるんだぜ」
薄明かりに浮かぶ景光さんがニヤリと笑う。
ふえ~ん…… お母さん、ごめんなさい!やっぱり知らないおじさんについて来ると、ロクなことはありませんでした~。
「京に遣いをやって、常盤の子がどこの寺に、どんなふうに預けられているのかを調べてもらう。策を練るのはそれからだ。
まぁ、お前さんは上手いこと寺からその子を連れ出し、港まで連れて行って舟にさえ乗せてしまえばいい。な~に、簡単なことさ」
「は…… はぁ……」
「さぁ。すっかり夜も更けちまったな。今日はゆっくり寝ろ。疲れただろ?」
客間みたいな部屋に寝床を用意してはもらったものの…… 寝れるわけがないじゃない。なんなのよ、この状況!
なんで私が平安時代の平泉にいるの?どうしてわざわざ京都まで行って、謀反者の息子を誘拐って来なきゃいけないの?
意味がわかんない!
でも…… こうなっちゃった以上。景光さんに助けてもらった以上。何か恩返しはしなきゃいけないだろうし。
それに、さっきはあんなことを言っていたけど。悪い人には思えないのよね、景光さんも、御館さんも、基成のお爺ちゃんも。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
朝日が眩しくて目を覚ますと、もうお邸に景光さんはいなかった。
代わりにお邸で働く若い── 私と同い歳くらいの女性が食事を持って現れる。
橘似は長旅で疲れているだろうから俺が帰るまで邸でゆっくりさせるように。と、景光さんから言われているらしい。
昨日の夕食に続き、とても美味しい朝食をいただきながら、ちょっとクールになって来た頭でいろんなことを考えてみた。
最初のコメントを投稿しよう!