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私は山の中で倒れているところを景光さんに助けてもらった。
その直前って…… そうだ。姉の安産祈願のために水天宮を訪れていたんだ。それで御祈祷が始まって、太鼓の音を聞いているうちに眠くなってしまったんだっけ。
その直前に会った、あの和装の男の子。えっと…… 確かトキヒトくんって言ったかしら。あの子はちゃんと、お母さんに会えたかな。まだあそこで私が戻って来るのを待っているのかな。
あの子。まるでこの時代の、いいトコのお坊ちゃんみたいだったな──
と、考えて。頭に衝撃が走った。
ウソでしょ?
最初…… 景色のいい境内でトキヒトくんと初めて話していた時。姉は「誰と話をしてたの?」って訊いたっけ。
ひょっとして、姉にはトキヒトくんの姿が見えていなかった?
その後、再びトキヒトくんを見つけて駆け寄った時。トキヒトくんは「御主には私が視えるのか?」って言っていた──
水天宮に祀られている、平安末期の悲劇の天皇。壇ノ浦で散った息子を、遠い京都の地で弔い続けた母親。
私、約束しちゃったもんね。トキヒトくんと。お母さんに会わせてあげる、って。
でも…… それが謀反者の息子を誘拐って来ることと、なんの関係があるの?
あ~、もうやめやめ!これ以上ない頭を捻ったって何も出て来やしない。乗りかかっちゃった船ですもの。今は景光さんの帰りを待って、次の沙汰を待ちましょう。
*
それからしばらく、私はのんびりと景光さんのお邸で過ごしている。着替えを持っていなかったので、このお邸にあるものを借りた。
…… って、男物の和服だけど。ゴメンね、進撃のデカ女で。
ずっとぼーっとしているのも申し訳ないので、女中さん達に紛れて家事のお手伝いなんかもしている。
もうすっかり、この時代の暮らしにも慣れてしまったな。
そんな頃、不意に景光さんが帰って来た。訊けば、宋(ってどこ?)や北のほうの民族からの船がやってくる港へ物資の買い付けに行っていたらしい。
私を板の間に向かい合うように座らせて、港の話をしてくれている景光さんが話題を変える。
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