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「常盤の子が預けられている寺について、ちと調べてもらってみた。どうやら京の北にある鞍馬という寺にいるようだな。
稚児名を遮那王と言うらしい。直接、寺に向かうのは危ないと思っていたところに、いい報せが入った。
寺の麓に住む白拍子が、寺に精通しているらしいんだ。どうやら祭事の折の舞を担っているらしい。
その白拍子── 磯禅師に密使を送り、交渉を試みることになっている。俺達が動くのは、その報せが届いてからだな」
また…… 知らない言葉がいっぱいだよ~。
「景光さん…… シラビョウシ、ってなんですか?」
「あぁ…… 男の格好をして舞を踊る遊び女のことだ。ただしそれは一般的な話。磯禅師ほどともなると、もう立派な舞踊集団だな。
橘似よ…… お前さんもその格好、板についているぜ」
「なによ!私もその白拍子みたいだって言いたいの?」
「まさか…… お前さんみたいな別嬪な白拍子なんざ、そう滅多にいねぇよ」
「はぁ…… そりゃぁ、どーも……」
…… 褒められたのでしょうか。
「まぁ。近いうちに沙汰はあるだろうから。それを待って、橘似には酒田の港に向かってもらう」
「え?京都── 京へ行くのではなかったのですか?」
「そう慌てなさんな。酒田から越前の敦賀へ、北方の毛皮や宋の焼き物などを京へ送るためのデカい舟を手配して来た。
橘似、お前さんにはその舟に乗ってもらう。敦賀から山をひとつ越えれば、そこからは近江を舟で渡れる。
積荷を運ぶのとは別に速足の舟を用意しよう。ならば京などすぐそこだ」
そっか…… 今のこの場所。平泉がどこにあるのかさえわからないけど、京都までは気が遠くなるほど歩き続けて行かなければならないような気がしていた。
そうよね。景光さんは貿易商ですもの。船でビューンって行ってしまえば、少しは楽なのかも。
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