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「おうよ!俺ぁ、この舟の頭で象潟次郎って者だ。景光っつぁんの弟子とあっては、無下には扱えめぇ。俺の部屋を使いな。今日の海は静かだ。いい旅になるだろうよ」
カッコいい!海の男!あぁ…… 見た目は怖いのに、どうしてこの時代の男の人っていい人ばかりなのでしょう。キュンキュンしちゃう!
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
私は再び船長の次郎さんに頭を下げる。
「橘似、武運を。敦賀の港じゃあ、喜三太っつー雑色が迎えてくれるだろうよ。そこから先は、ヤツに任せな」
「はい!頑張ります…… あのぉ、ゾウシキって……」
「あぁ…… 下働きの小童のことだ。じゃあ次郎、頼んだぞ」
丸太を何本か並べて組んだタラップから、次郎さんに先導されて船に乗る。景光さんとは、そこで手を振って別れた。
きっと必ず、お目当ての少年を見つけ出して連れて帰って来ますから。待っててくださいね、景光さん。
船の旅は本当に快適だった。天気も良くて波も穏やかで。私はたまに部屋からデッキに出て日向ぼっこをしたりして過ごしていた。
もちろん狐のお面は取って。
日焼止めを塗りたいけど。この際そんなこと、もうどーでもいいでしょ。
あぁ…… 潮風が気持ちいい。
この船から降りて京都に着いたら。私には困難なミッションが待っている。でももう、やるしかない。
このワケのわからない世界で生きていくには、目の前にある目的に向かって行くしか他に標がないでしょう?
だから絶対にその子を見つけ出して平泉に連れて帰って見せるんだから!
京都へ行くのは高校の修学旅行以来か…… 観光している暇なんか、ないかな?
なんて。
(序段:神社の男の子との約束 終)
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