序段:神社の男の子との約束

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 義兄はとても優しい人だ。海外出張の多い何か難しいお仕事をしているみたいだけど、馬鹿な私にはわからない。  大学で知り合った姉と結婚してからも、世界中を飛び回るような生活をしていたようだけど。それも落ち着いて、ようやく子宝にも恵まれたみたいだ。  社務所の前の、陽だまりのベンチ。お腹の大きな姉を真ん中にして、その両側に義兄と私が座る。 「祥恵(さちえ)ちゃんは、3年生だっけ?」  姉越しに義兄が話し掛けて来る。 「ええ…… 3年生に、なっちゃいました」 「そろそろ、就職を考えないとね」 「そうなんです。でも、私はお姉ちゃんと違ってバカだから……」 「そんなこと言わないの。バカはバカなりに、できることがあるんだから」  くそぅ…… お姉ちゃんめ。せめてバカは否定して欲しい。  ちぇっ!と不貞腐(ふてくさ)れるように、わざと視線を泳がした神社の建物のほうに、またあの男の子がいるのが見えた。  まだお母さんは見つかっていないのかしら。 「ちょ…… 祥恵。どこ行くのよ!」  引き止める姉に構わず、私は吸い込まれるように── 何かに導かれるように男の子のほうに走り出していた。 「お母さん、まだ見つからないの?」  私の質問に男の子が不思議そうな顔をする。そして首を(かし)げたまま、まっすぐ私の目を見て言う。 「さっきも言おうとしたのじゃが、御主には私が視えるのか?」  はい?意味がわかりませーん…… 「ええ。視えてるよ。ボク、お名前は?」 「…… 言仁じゃ」 「お母さんとは、どこまで一緒だったの?」 「舟に乗ったのじゃ。母上と、ばばやも一緒じゃった。おじき達も、たくさんおったぞ」  やっぱり。何かの撮影隊のことね。 「そっかぁ…… じゃあお母さん達は、そのお舟にいるのね」  男の子は寂しそうに俯いて、首を横に振る。 「ちがう者達が、たくさん舟に乗って来て。もうここにはいられないから。波の下にも都はあるから。って、ばばやと舟から降りたのじゃ」
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