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「そ…… そう。ねぇ、お母さんのお名前は?」
「徳子じゃ」
「『ばばや』ってお祖母ちゃんのこと?お祖母ちゃんのお名前は?」
「時子じゃ」
「ふ~ん…… わかった。じゃあ、お姉ちゃんが一緒に探してあげる。でも…… ちょっと用事が終わるまで、ここで待っていてくれる?」
「応。まことに一緒に母上を探してくれるのか?私はまた、母上に会えるのか?」
私のふとももにしがみ付く男の子──トキヒトくんの決死の形相に、逆に可笑しくなってしまう。
「大丈夫よ。お姉ちゃんが一緒。だから、ちょっと待っててね」
「…… 御主、名をなんと申す」
「私?祥恵よ」
「…… 祥恵とやら。まことに私を救い出し、再び母上に会わせてくれるのだな」
「何度も言ってるでしょ?私に任せておきなさい」
「応。約束じゃぞ」
しつこいトキヒトくんを振り切って社務所に戻ると、ベンチにはもう姉夫婦の姿がなくなっていたので早足で神社の本殿に向かう。
二人は本殿に寄り添うように座っていたけど、儀式はまだ始まっていないみたいだ。
義兄が神社のパンフレットのようなものを読んでいる。
「もう…… どこに行ってたの?祥恵」
「ゴメンゴメン。迷子の男の子に捕まっちゃってさ。あとで一緒にお母さんを探してあげる。って言って逃げて来た」
「まったく……」
「へぇ…… 水天宮って、建礼門院と安徳帝を祀っているのか」
「ケンレーモンイン?アントクテー?」
済みません。それ、どこの国の人ですか?お義兄さん。
「だからアンタはバカだって言われるのよ!」
「まぁまぁ。知らなくても仕方がないよ。安徳天皇は平安末期、悲劇の帝って言われる天皇で。壇ノ浦で平家一門とともに露に消えた人物だよ。
建礼門院は、その母親。彼女は助かって京都の大原に護送、幽閉されるんだ。
出家して生涯を亡き息子、安徳天皇の菩提を弔い続けたから、いつのまにか母子愛の象徴みたいな存在になったんだろうな」
「へー」
「うわぁ、興味ゼロって感じ」
そりゃあ、いきなり平安時代の話をされたって、わかんないわよ!
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