其ノ弐:伊豆の頼朝と北条氏

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*  平泉は山に囲まれているので夏は暑いし冬は寒い。私はそれを、いったいどれくらい繰り返したのだろうか。  相変わらず私は珠蟲ちゃんと、この景光さんのお邸で雑子女(ぞうしめ)として働いている。  私はたまに、佐藤さんの別荘で九郎や佐藤家の馬鹿息子達── 継信(つぐのぶ)忠信(ただのぶ)兄弟のお世話をしたり、一緒に文武に励んだりしている。  佐藤さん()にいると、稀に御館の御子息── 国衡(くにひら)さまや泰衡(やすひら)さまもやって来て、一緒に馬に乗ったりチャンバラごっこのような剣術の練習をしたりしている。  お陰で馬なんか乗ったことのなかった、私も九郎も。自転車レベルで操れるようになった。剣術も、かなり上達したと思う。  そんなある日。珍しく衣川のお邸に帰って来た景光さん。御館さんのところへのご挨拶も早々、帰って来るなり私に言う。 「(みやこ)の相国殿が伊豆の北条氏に物資を送る遣いを送ったらしい。だけどそんなのは表向きで、本当の目的はきっと佐殿の様子を伺うためだ。  なんとかその使者と合流、そして買収して佐殿の沙汰を知りたい。というのが御館の御心だ。  俺はこれから(みやこ)へ遣いを出すために酒田に向かう。橘似は俺が帰って来るまでに従者(ずさ)を選んで旅の支度をしておいてくれ」  は? 「え?私が行くの?伊豆まで?」 「ああ。お前さんも『金売り』を名乗る以上、物資を届けるのも仕事のうちだ。やってくれるな」  まぁ…… それでチラッとでも頼朝の顔を拝めるのなら、行ってみる価値はあるかも。  私は黙って頷いた。 「── ってなことを言われちゃってさ。どーしよ。誰を連れて行こう」  その日の夜。私は弁慶さん、海尊さん、義盛さんと喜三太を夕飯に呼んだ。昼間、景光さんにお願いされたことの相談のためだ。  当の景光さんは情報収集のため、もう既に酒田へ出発してしまっている。
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