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やがて山道は開けて、大きな川沿いに広がる集落へと出た。
── って、何これ。映画のセット?
土を固めた広い通りには馬や荷車が行き交っているし。景光さんもそうだけど、歩いている人達はみんな和装もしくは、ワイルドな毛皮を着ているし。
建っている家も古めかしい造りのものばかり。でも古いんじゃなくて、どの家も新築みたいに輝いてる……
いったいどーゆーこと?
「着いたぜ。面を付けてくれ、橘似」
景光さんの言葉にハッとして、手にしていたお面を顔に付けて紐を耳に掛ける。
「金売りの景光だ。御館に御目通りを!」
立派な門の前で景光さんが叫ぶと、その重々しい扉がゆっくりと開く。
やがて鮮やかな柄の着物を身に纏った女性が数人現れて、私達を先導するように歩き出した。
立派なお邸の、広い板の間に通されてしばらくすると、スルスルと着物が擦れる音がして二人のお爺ちゃんが現れる。
その気配を感じて景光さんは深々とお辞儀をするので、後ろに控えている私も真似をする。
「おう!景光、よう来た。苦しゅうない」
それが合図だったかのように景光さんが頭を上げるので、私も真似をする。
部屋の一段高くなった場所の真ん中に居座るお爺ちゃん。彼が景光さんが言ってたミタチさんなのでしょうか。
「その者は?」
ミタチさんと思われるお爺ちゃんが閉じた扇を私に向ける。すると景光さんがその先── 私のお面をチラッと振り返ってから話し始めた。
「新しく弟子に迎えた橘似にございます。宋よりまた先の、遠方との商いを任せているので、このような出で立ちで。
顔に大きな傷があり、とてもお見せできるようなモノではございませんので。戯れをお赦しくだせぇ」
「お尋ね者ではあるまいな」
「ははは…… まさか。この景光、そこまで零落れちゃあいませんぜ」
「早速だが景光よ。お前に頼みがある。某からではなく、こちらの岳父からの頼みだ」
「はっ!なんなりと、基成殿」
「うむ……」
今まで右側に控え気味に座っていた、ミタチさんよりも歳上に見えるお爺ちゃんが口を開く。
ちちうえ?ミタチさんのお父さんなのかしら。
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