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「儂の父の従兄弟── いわば大叔父に一条長成という公家がおっての。
しばらく前に相国殿より、あの常盤を預かってな。稚児であった義朝との子もしばらく共に住まいておったのじゃが、常盤が大叔父との子を授かったのを機に寺に預けよったのじゃ。
まぁ、元からそれが相国殿との約束であったようなのだが……」
なになに?何語?まったく話がチンプンカンプンなんですけど!
「この陸奥国は物資や産物、金銀にも恵まれて主上や平家とも上手いこと均衡を保つことができている…… が、しかしじゃ。
先の保元、平治の戦で平家以外の侍の力が台頭して来たのも事実じゃ。平家に次ぐ勢力に備えなければならない」
お爺ちゃんの話に、景光さんがフフンと鼻を鳴らす。
「伊豆の…… 佐殿でございまするか?」
「ご名答。佐殿と上手く渡り合うには、この奥州には手駒が少なすぎる」
「寺に預けられた、佐殿の異母弟を味方に付けると」
「出家されてからでは、後が面倒だ」
「承知しました。早めに手を打ちましょう。この衣川にお連れすればよろしいですね」
「うむ。頼んだぞ、景光。奥州の金売りの名にかけて」
「仰せのとおりに」
景光さんが、また頭を深々と下げるので私も慌てて真似をする。
ミタチさんのお邸を出た景光さんと私は、この集落の大きな通りを歩いている。
この世界が── 景光さんと二人のお爺ちゃん達が話していた内容が、わけがわからな過ぎて脳みそが勝手にカーニバルを始めてるわよ!
「面、取ってもいいぞ橘似」
振り返りざま、景光さんにそう言われるまで私は狐のお面をしていることさえ忘れていた。
「橘似…… 身寄りがねぇんだったら、俺の邸に来るか?お前さんに頼みてぇこともあるしよ」
私も、景光さんに訊きたいことがたくさんある。
知らないおじさんについて行ってはいけません。って小さい頃から教わって来たけど、景光さんの言うとおり。今の私には身寄りがなさそうだ。
こんな見たこともない集落に放り出されるのはイヤだ。ここは景光さんの厚意に甘えよう。
黙ってコクリと頷く。
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