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景光さんの家はミタチさんのものほど大きくはないものの、かなり立派なお邸。
たくさんの女性が働いていて、主である景光さんが帰って来ると、すぐに食事を用意してくれた。
私もお腹が空いていたからいっぱい食べちゃった。
食事が済んだ頃、日没を迎えてあたりが暗くなって来る。電気── なんて、やっぱりないのよね。何かの油みたいなものを入れた小さなお皿に火が灯る。
「俺に…… 何か訊きたそうな顔をしているなぁ、橘似よ」
食事が下げられた板の間に向かい合って座る私と景光さん。
その薄明かりに照らされた景光さんの顔。なんか…… 全てを見透かされているようで怖い。
「まず…… ここは、どこなのですか?」
「ここかい?ここは奥州── 陸奥国の都、衣川だ。わかるかい?」
私は俯いて、小さく首を横に振る。
「やっぱり…… お前さん、前のことをちっとも憶えちゃいねぇんだな。よっしゃ!まずはお前さんに、いろいろ教えなきゃいけねぇことがあるな。
まずは…… さっき会ってきた御館が、この奥州── 陸奥守であられる藤原秀衡殿だ。
俺は御館の元で宋や蒙古、北方の連中と商いをしている。この奥州は物資が豊富だからな。主上とは別の筋で交易ができるってモンよ。
今やこの衣川── 平泉の都は京の都に次ぐ勢力を誇っている」
なんか…… 聞いたことがあるようなないような単語、地名、人名が頭の奥底のほうでぼんやりしてるけど。
あぁ…… こんなんだったら、もっとちゃんと歴史を勉強しておけば良かった。
「今は…… 何年なんですか?」
「承安四年…… わかるか?」
また…… 首を横に振ることしかできない。
私の様子に景光さんがひとつ、溜め息を吐く。
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