序段:神社の男の子との約束

8/14

147人が本棚に入れています
本棚に追加
/312ページ
*  景光さんの家はミタチさんのものほど大きくはないものの、かなり立派なお邸。  たくさんの女性が働いていて、主である景光さんが帰って来ると、すぐに食事を用意してくれた。  私もお腹が空いていたからいっぱい食べちゃった。  食事が済んだ頃、日没を迎えてあたりが暗くなって来る。電気── なんて、やっぱりないのよね。何かの油みたいなものを入れた小さなお皿に火が灯る。 「俺に…… 何か()きたそうな顔をしているなぁ、橘似よ」  食事が下げられた板の間に向かい合って座る私と景光さん。  その薄明かりに照らされた景光さんの顔。なんか…… 全てを見透かされているようで怖い。 「まず…… ここは、どこなのですか?」 「ここかい?ここは奥州(おうしゅう)── 陸奥国(むつのくに)の都、衣川(ころもがわ)だ。わかるかい?」  私は俯いて、小さく首を横に振る。 「やっぱり…… お前さん、前のことをちっとも憶えちゃいねぇんだな。よっしゃ!まずはお前さんに、いろいろ教えなきゃいけねぇことがあるな。  まずは…… さっき会ってきた御館が、この奥州── 陸奥守(むつのかみ)であられる藤原秀衡(ふじわらのひでひら)殿だ。  俺は御館の元で宋や蒙古、北方の連中と商いをしている。この奥州は物資が豊富だからな。主上(おかみ)とは別の筋で交易ができるってモンよ。  今やこの衣川── 平泉の都は京の都に次ぐ勢力を誇っている」  なんか…… 聞いたことがあるようなないような単語、地名、人名が頭の奥底のほうでぼんやりしてるけど。  あぁ…… こんなんだったら、もっとちゃんと歴史を勉強しておけば良かった。 「今は…… 何年なんですか?」 「承安(しょうあん)四年…… わかるか?」  また…… 首を横に振ることしかできない。  私の様子に景光さんがひとつ、溜め息を()く。
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加