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「ここ何百年も、主上を中心とした平和な世の中が続いていた。
それが公家── 藤原氏の台頭。隠居、出家したはずの前の帝が政をおっ始めたりと、乱れた世になっちまった。
主上や公家が弱り始めてきたこのごろ、出て来やがったのが侍達だ。
主上に謀反を企てたり、その謀反の首謀者をやっつけようとしたり…… 京にも火の手が上がっている。
俺達奥州人は、戦を避けて平穏に暮らしたい。そのために御館と、御館の奥様の父上であらせられる藤原基成殿がいろいろ思案してるってわけだ」
京の都…… 退位したはずの天皇が政治…… それなら知ってる!それって平安時代?
それに天皇の失脚を狙ったクーデターって…… その首謀者を成敗する戦いって……
「景光さん、教えてください。さっきのお邸で、もう一人のお爺ちゃんが話してた伊豆のスケドノって……」
「ああ。謀反の首謀者のうちの一人である源義朝の子、頼朝殿のことだ。
本来ならば捕らえられた時点で首をはねられてもおかしくはなかったんだが…… 相国殿に何か思うところがあったのだろう。助かって伊豆に流されたんだ」
「その…… ショウコクって……」
「平家の御大、清盛殿のことだよ。知っているのか?」
「ええ…… 平清盛、源頼朝くらいは」
どんな馬鹿だって、この二人の名前くらいは知っていると言うもの。何をした人なのかは、よく知らないけど。
「そうか。なら…… ちっとは話も早いってもんか?いいか、橘似よ。ここからは大事な話だ。心して聞けよ」
急に真剣な表情になる景光さんに怯み、思わず頷いてしまう。
「御館と基成殿は、伊豆の佐殿がいずれ力を持ち、朝廷、平家に次ぐ第三の勢力になるだろうと見ている。
そうなった時に、奥州の立場は弱い。そこでだ。亡き義朝の忘れ形見である常盤との子── 寺に預けられた稚児を、この衣川で匿うのが一番の手だ。
佐殿を敵に回さないようにな」
「うんうん」
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