其ノ肆:黄瀬川での邂逅

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其ノ肆:黄瀬川での邂逅

 ちょうど景光さんがお邸に帰って来たので、私は今までのことと、これから九郎に同行して頼朝に会いに行きたいということを告げる。  すると景光さんは一瞬驚いたような顔を見せて、そして申し訳なさそうに俯きながら後頭部あたりに手をやる。 「橘似…… お前さんに謝らなきゃいけねぇことがある……」  なになに?なんだろう? 「まず、お前さんを山で拾った── 初めて会った時のことだ。実は、俺は偶然あそこを通りかかったわけじゃねぇ。  山の中に倒れている奴がいると聞いて、コイツは何かに使えると思って見に行ったのさ。そしたらなんだい。お前さんは今までのことを何も憶えちゃいねぇって言うじゃねーか。  そんな折りによ。御館── っつーか基成殿が常盤の息子を(みやこ)から誘拐(さら)って来いなんて言いやがる。いくら俺が『人売り』だからってよ、そんな危ない橋は渡りたくはねぇ。  それに、九郎殿をこの平泉に連れて来られなかったって、御館も基成殿も俺を責めやしねぇと踏んでいた。  だからだ。俺はお前さんにこの件を依頼したんだ。九郎殿を見つけられなくたって、それはそれでいい。見つけたはいいが無事に帰って来れなくたって、それはそれでいい。変な面を付けさせたのは、俺の足が付かねぇように細工をしたまでだ。  それがどーした。お前さんは九郎殿を見つけ出してここへ連れて来ただけでなく、九郎殿からえらく信頼されているようじゃねーか。  今までのことは謝る。このとおりだ。騙していて── お前さんを利用して、本当に申し訳なかった。  お詫びによ、これからは師弟の縁を解く。その代わりに、これからも橘似達── 九郎殿とその連中の手助けをさせてはもらえねぇだろうか」  と、頭を下げる景光さん。  なーんだ…… 私はただの鉄砲玉だったってわけね。成功する確率が低いことをわかっていて、それで山に倒れていた私を利用したのか。  まぁ、そんなこと。今となってはどーでもいいことだけど。
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