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「バロメッツは知能を持ち、自走できる。ただ、バロメッツを扱った文献は少ない。人を殺すような潜在能力についても、実際に人を殺めたという記録も存在しない。だからアレックスひとりに、あんなふうに見張りを任せたのだ。もっともこうなってしまった以上は、実は人を殺すこともできたと考える方が自然かも知れんな」
ヴェルターは丁重に礼を言った。老人は無言で、杖をつきつつゆっくりと帰っていく。
何者かに持ち去られたのだと確定してしまった場合にその犯人を捜すことはひどく困難に思われたが、バロメッツが自発的に逃げ出したのならまだ一縷の希望はあるように思われた。なにせそう大きくない実と羊である。歩幅からしてもそう遠くまではいけないはずだし、人目につく。誰かに貰われていたにしたって買収する用意もある。迷子になってあちこち彷徨していたら不意に見覚えのある建物にたどり着いたような、そんな気分になった。
ヴェルターはしっかりとした足取りで歩みを進める。あとはひたすら足を使って町の隅まで虱潰しにバロメッツを探すつもりだった。四辺を壁に囲まれた狭い空間だ、半日もあれば見て回ることが出来るだろう。頭を使って考えるのは苦手だが、体力には少し自信がある。なにせこちらは料理人。毎日立ちっぱなしで重い器具をふるっているのだ。
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