0人が本棚に入れています
本棚に追加
屋敷を抜けて街道に出ると、陽はすでに真上まで登っていた。所狭しと並ぶ屋台のあちこちで、商人の威勢の良い掛け声が客を奪い合っている。血管のような道々を人が、馬車が、忙しなく行き交う。そこには都市というひとつの営みが息づいていた。ふとすれば一大事の真っただ中にあることを忘れてしまいそうなまでの、変わり映えしない日常である。
なんとか任務を完遂し、料理長に褒めてもらいたい。あわよくば給金も上げてもらいたい。
幅広な歩幅でもって、青年は、都市の喧騒に飛び込んでゆく。
4
風が冷たく感じられ太陽が赤く熟してくるころになると、片付けを始める店が段々と目立つようになり、とめどなく思われた人波も次第にまばらになってくる。代わりに石造りの無骨な家々からは夕餉の匂いが漂い始めて帰路に就く人々の足を速めている。名も知られぬ鳥が上空を横切り、郷愁を誘う鳴き声をあげる。熱気にあふれた喧騒はいつしかある種の落ち着きを取り戻し、夜の訪れを暗示する。
最初のコメントを投稿しよう!