オレンジの返り血

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 これではないかという結論が出たのはついさっきのことだった。食い違う証言と死体に残る微かな違和感、その他事件を構成する諸々の要素が奇跡的な閃きによって綺麗な列を成したのである。とはいえ正しいという絶対の自信はない。しかしやれるだけやってみると料理長に宣言したことを、ヴェルターはまだ覚えている。  目的の部屋に到達し、ノックを数回。「入れ」と声が帰ってきたので、その通りにする。 「失礼致します。貯蔵庫の一件の真相が分かりましたので、報告に参りました」  杖をつきつつ椅子から立ち上がる。そうしてガストロノミアの科長は、不思議そうな顔をした。 「どういうことだ。真相を話すならば、わしよりほかに適したものがおるだろうに」  ヴェルターは唇をなめて、震える足を整える。まっすぐに視線を伸ばして、答える。 「それは、あなたが、見張りを殺した犯人だからです。科長さま」 7  部屋には蝋燭が数本灯るのみで、薄暗い。炎の揺らぎは妖しく、不気味で、老人の立ち姿は異界の存在のようにすら見える。 「程度の低い料理人めが。気でも狂ったか」  いきなりの暴言に少し傷つく。しかし負けてはいられない。ヴェルターは拳に力を込める。 「いえ、俺は正気です」  悲しみに暮れる老人の姿は、いつしかどこにも見当たらなくなっていた。腕はしっかりと杖を握って、特注の包丁のように鋭い視線がヴェルターを睥睨している。さして面白くもなさそうに彼は鼻を鳴らす。     
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