オレンジの返り血

18/26
前へ
/26ページ
次へ
「では、問おうではないか。なぜ犯人がわしに絞り込まれたのか。そしてなぜ、わしは愛弟子のアレックスを殺さなくてはならなかったのか」 「そのふたつとバロメッツの行方はすべて同じ筋書きで説明することが出来ます。――バロメッツの運び込まれた深夜、あなたは差し入れを持って愛弟子のいる貯蔵庫に向かった。そして、」  大きく息を吸う。拍動する心臓に手を当てると、服越しにさっき買ったばかりのオレンジの感触がある。 「欲望に負けてバロメッツを貪っている弟子の姿を目撃した」  細められていた眼がにわかに見開かれる。どういった種類の驚きなのか、ヴェルターには見分けがつかない。 「あなたは貯蔵庫で仰いました。アレックスは熱心だったと。彼はその熱心さゆえに、食欲に飲まれてしまった。……これが明るみに出ればガストロノミアの名声は地に落ち、最低でも解散、ひどければもっと重罪に処されてしまう。だからアレックスを殺し、バロメッツを盗まれたように見せかけた。そうすれば罰されるのは料理人になるだろうと考えた。あなたはこうも仰いました。アレックス以外の弟子は誇りもないグズばかりだ、と。だからこの動機が通用する犯人は、あなたしかいないと考えました」     
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加