0人が本棚に入れています
本棚に追加
貯蔵庫で出会った時、老人は深い悲しみに包まれていた。初めは当然愛弟子を亡くしたからだと思っていた。しかし実際は違った。この老人は、唯一信頼を置いていた弟子が私利私欲に走ったことを嘆いていたのだ。
「何を言うかと思えば、そんなことか。それはあくまで辻褄の通る可能性のひとつであって、他の選択肢を否定する理由にはならん」
「それでは、他の可能性ですが、――まずバロメッツは実際には知能なんてないし、自分では動きません。これは何かの文献で裏付けてもらえるでしょう。あなたは記憶違いだったと主張なさるのかもしれませんが」
ガツン。ガツン。静謐の似合うガストロノミアの書斎に大きな音が反響している。科長が杖で、思い切り床を叩いているのだ。息が荒く、身体が小刻みに震えている。怒っている。理由はなんにせよ。ここまで来れば、もうあと戻りは出来ない。
「外部からの侵入者が殺したというのも、あり得ません。死体は仰向けに倒れていて正面を刃物で切られていた。もし見覚えのない人物が部屋に入ってくれば警戒するでしょうし、刃物が見えれば背を向けて逃げるに決まっている。これは見知った人物が不意打ちで殺したことを示唆しています」
「詭弁だ。アレックスが不審者に正面から立ち向かったのかも知れん。わし以外のアレックスの友人がバロメッツ食べたさに不意打ちで殺した可能性もある」
最初のコメントを投稿しよう!