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「すみません。昨晩なかなか眠れなくて」
「浮かれた気分は殺してから調理に望め。いいな」
「はい、もちろん」
やがて全員が集合すると料理長はきりりとした視線で部屋全体を見回した。身長はそこまで高くないけれど、その雄姿には威厳のようなものが漂っている。厨房は静まり返っていた。やはり今日は特別な日なのだと、そんな気がしてくるような気配がある。
「これより我々はバロメッツの調理を行う。前例のない試みとなるが、基本を忘れず、冷静に各自の役割を果たすこと」
バロメッツ。それは勇者の土産のひとつ。人頭より一回り大きいくらいのその木の実がどうやら食材になるらしいということは、食学研究科(ガストロノミア)の研究員によって一晩のうちに解明された。その種類の植物の実の中で、まれに羊が眠っていることがあるのだという。名をバロメッツと言い、羊にも植物にも似ない妙味があるという。
この空前絶後の食材を調理することは、きっと料理人にとっての最高の名誉になるだろう。
ヴェルターは確信していた。
「肝心の食材だが、別室に保管してある。いまから準備を……」
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