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「あり得ません。そもそも犯行が行われたのは夜です。明かりをつければ目立ちますから、外部の人間はそんなリスクを冒すはずがない。内部の人間にしても、誰かに目撃されでもしたら真っ先に疑われてしまいます。つまり犯人は現場にたどり着くまでは殺すつもりなんて無かった人間です。だから目撃されることも恐れずに、夜に明かりをもって現場に足を運んだ」
ガツン。ガツン。音はやまない。
「待て。なぜ殺されたのが夜だと分かる。早朝に殺されたとしたらどうだ。人どおりも少なからずあるし、光源も要らぬ。目撃されたくらいではどこに向かっていたのかも特定できないし、一方的に疑われることもない。早朝に内部の誰かがバロメッツ食べたさにアレックスを殺したのだ」
「現場には蝋燭がまるまる一本まだ残っていました。早朝まで生きていたのならその蝋燭にも火は灯されていたでしょう。高級品の蝋燭を余分に持っていたとも思えません」
滔々と語る一方で、この推理に穴があるかもしれないともヴェルターは考えていた。しかし彼には自分の推論を裏付ける根拠がある。
それは遺体に残っていた血液の違和感である。乾き方に差異があるように見えたのは、人間の血とバロメッツの血が混じっていたからなのだ。バロメッツの性質は羊に酷似しているという。それなら果汁が血のようであってもおかしくはない。いまとなっては両方乾ききって証拠にはならないだろうが、ヴェルターの推理に自信を与えてはくれた。
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