オレンジの返り血

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 不意に料理長の朝礼が途切れる。屋敷から続く扉が乱暴に開け放たれ、女中が駆け込んできたためである。どうしたと尋ねる間もない。 「た、大変です。バロメッツが、バルメッツが失われました!」  厨房にざわめきが満ちる。  うるさい、と一喝して、料理長が応じる。 「どういうことだ? 貯蔵庫には見張りが付いていた筈だが」 「そ、それが……」 「とにかく、案内してもらおうか」  女中はこくこくと頷いて、慌ただしく廊下の奥へと消えた。 「お前たちはここで待っていろ」  料理長もそのあとに続く。  怒涛の展開にすっかり置いてけぼりになっていたヴェルターは、大変なことになったなあと厨房の高い天井を仰いだ。  不意に肩を叩かれ、振り向くと、先輩料理人が立っている。 「よう、ヴェルター。いったい何があったのか、おまえ気になンねえか? 「な、なります。けど、さっき料理長が――」 「だよなあ。そうだよなあ。……ヴェルタ―。オレたちが頼みたいことがなにか、分かるよな?」  上からぐぐっと降りかかる、有無を言わせぬ視線。その意味は明らかだ。  行きたくなかった。料理長の命令に逆らえば碌なことにはならないのは目に見えている。     
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