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思わず青年が漏らしてしまった声に、あたりを検分していた料理長が振り向いた。
ヴェルタ―を視界の中心に収めると、腕を組んで口端をゆがめた。ああ、やってしまった。こうなってしまってはもうご寛恕に期待をする他ない。思わずかたかたと震える腕をもう片方の腕で支える。
「やあ、ヴェルター。貴様に私の指示は届かなかったのかな」
「い、いえ、決してそういうわけでは……」
「貴様の言い訳に構っている暇は無い。これを見ただろう?」
ほっとしていいのかどうかは微妙なところだったが、とりあえず怒鳴られることも追い出されることもなく、ヴェルターはとぎまぎしながら冷や汗を拭う。気を取り直す。
「……これ、亡くなっていますよね」
「馬鹿なことを訊くな」
「ガストロノミアの方です。昨晩から夜通し貯蔵庫を見張っていてくださっていたのですが、私が朝食をお持ちした時には、すでに……」
ふたりのやり取りを心配そうに見守っていた女中が説明してくれる。
それを受けて料理長がつぶやく。その眼には珍しく、憂いの色が浮かんでいる。
「大変なことになったな」
「ええ。まさか、死人が出るなんて……」
ヴェルターが応じると、馬鹿にしたように鼻を鳴らして、
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