オレンジの返り血

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「馬鹿者。そうではない。バロメッツが失われたことがだ。せっかくの珍味が食べられないと知られれば、間違いなく我々はあの市長によって罰されることになるだろうな」  冷たいなあと思わないでもなかったが、なるほど確かに正論でもある。国王のまえで失態を演じさせられたとなれば、市長の怒りのほどは想像もつかない。事情をいちいち斟酌してもらえるとは思えなかった。 「このことは、他の誰かに話したか?」  料理長が、女中に問いかける。 「はい、ガストロノミアの科長には報告いたしました。他には、誰にも」 「そうか。それなら、このまま決して他言はしないよう頼む」 「かしこまりました」  料理長は懐から財布を取り出して、銀貨を何枚か女中の手に握らせた。女中はそそくさとそれをしまい込み一礼して部屋を辞する  残されたのは料理長と青年。部屋はしんと静まり返って、淀んだ空気が漂っている。気まずさを感じながら、ヴェルターは沈黙する。謝ったものか、どう切り出したものか。ぐるぐる考えていると声がして、びくりと背を伸ばす。 「ヴェルター」 「はっ、はい」  部屋を見回していた猛禽のごとき視線がついに哀れな青年を釘付けにする。カツカツと音の出そうな仕草でもって靴先で床を叩きつつ、おもむろに口をひらく。 「きみにはバロメッツの捜索を行ってもらおう。市長の怒りを買わぬよう、なんとしてでも見つけ出せ」     
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