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これには相当驚いた。あまりにも驚きすぎてしばらく何も言えなかったせいで、暗黙の了承と解釈した料理長が部屋を出ていこうするくらいには驚いた。我に返り、慌てて引き止める。怒られなかったのは幸いだったが、しかし、素直に喜べない。
「ど、どうして俺が」
言いかけて、やめる。答えは余りにも明白で、先輩に言われるがままに命令を破ったツケが回ってきたのだと、ただそれだけことだろうと思ったからだ。……いや、しかし。ただそれだけで納得できるものだろうか。青年はぶんぶんと首を振る。
「俺はただの料理人です。頭の出来もよくないですし、他の誰かに頼んだほうが良いのでは……」
「お前は本当に人の話を聞かないな。言ったろう。バロメッツが盗まれたことは、決しておおっぴらには出来んのだ。この場に居合わせたお前に頼むしかあるまい」
「それでは、その、料理長みずから捜索された方が俺なんかよりも確実なのでは……」
「何を言う。私はバロメッツを奪還できなかったときのため、市長に対する言い訳を考えなくてはならないのだ。……うまくいかなければ、きっと、私は火あぶりにされてしまうだろうからな」
「火あぶり!?」
青年はまたしても仰天した。まさか料理ひとつで火あぶりだなんて。いくらなんでも死罪に問われはしないだろう。そう思うけれども、料理長の眼は真剣そのもの。火あぶり。まさか本当に。ごくりと唾を飲む。やはり覚悟を決めるしかないのか。
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