3(2) グラシャラボラスについての抗弁

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3(2) グラシャラボラスについての抗弁

3 四大軍事種族についての抗弁 (2)グラシャラボラスについての抗弁 「然しながらバールゼブルは、階級社会への適応や堅牢(けんろう)なる外骨格のため、欲求の充足または不満足に対する心理的反応、即ち感情の表現が不得手な種族なり。この特性は競争的な交渉において利点たり得る反面、共感に基づく親密な交流に際しては不利を招く場合が存在せり。この弱点を補うべく、サタンは我に、感情豊かにして強健な我が友好種族グラシャラボラスを彼女の艦隊幕僚(ばくりょう)として転任せしむべく、親衛軍司令部に推薦せしめたり」 「グラシャラボラスはイヌ科動物に類似せる肉食獣から進化し、またその宇宙進出史において悲劇的な星間戦争を経験せる種族なり。通常、かかる歴史を有する種族は高き攻撃性と好戦性を有し、他生物、特に知的種族に対する生存競争や強圧的支配を積極的に肯定せるが故に、彼女もまたその資質を期待され、親衛軍に配属せられたり。然し彼女は実際には、それ以前の時代において、かかる生物の〝宿業(しゅくごう)〟あるいは知的生物の〝原罪〟とも称し得る属性を、文明発展に伴いて昇華することに成功せし種族なり」 「当時サタンは文明開発省の担当種族として、我はその業務を受託せる生体情報産業種族として、グラシャラボラスの文明開発を支援せり。彼女はその優しさと賢明さによりて、我等の技術的支援を最も有効に活用せり。産児制御と食肉培養の技術は食料資源を巡る〝共喰い戦争〟を根絶し、他の生命や文化・文明を尊重する価値観の形成を可能とせり。惑星破壊兵器に対する防御戦略の採用は、彼女を近隣種族間の戦争における唯一の勝者とするのみならず、衰退せるかつての敵種族への救援を通じて、彼女を宙域内の指導的種族へと発展せしめたり。我等は今なお、この若く優秀な最先進種族の発展に関与し得たることを、大いなる喜びとするものなり。彼女は自らの努力によりて、その後の困難な境遇をも克服し、軍事種族ながらも他種族への共感を忘れず、平和の恩恵と友好の福利を追求し得る種族へと成長せり」 「彼女はその純真かつ天真爛漫(てんしんらんまん)にして、虚偽(きょぎ)虚飾(きょしょく)を好まざる性格から、上級種族の腐敗に伴う親衛軍の系列化・私物化という状況に悩み、軍事種族からの離脱を希望せり。彼女はその正当性に疑いなき任務につきては確実に職責を(まっと)うせるも、さに非ざる場合には成果もまた(かんば)しからざりき。また説得による戦闘の回避を通じ、反抗を口実として対象種族を殲滅(せんめつ)せんとする中枢種族の企図を、結果的には挫折(ざせつ)させたる事例もありしが故に、彼女の転属もまた比較的容易に承認せられたり。彼女とバールゼブルは無二の友好種族となり、互いに効率的かつ人道的な軍事力行使の技術と、他種族の心情に対する理解や訴求の能力を提供し合うことにより、艦隊の能力をさらに向上せしめたり」
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