1 サタンについての抗弁

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1 サタンについての抗弁 「第一に、サタンは先帝への敬愛から発展途上の宙域における文明開発任務を志願し、永年の功労が認められて文明開発長官の地位に就きし者なり。彼女の母星は、帝国の古き種族の例に漏れず銀河系中央部に位置せるも、小型のために地磁気の減衰による大気散逸(さんいつ)に悩み、これに加えて他の星域よりも近接せる近隣恒星の新星化を受けて、惑星統一後間もなく種族存亡の危機に直面せり。この時彼女に先進的な宇宙工学技術を与えて救いたるは、当時既に複数の種族を率いて、軍事征服により星間帝国を拡大しつつありし先帝なりき。先帝は彼女の帝国加入を祝福し、その言語によりて〝サタン〟、即ち〝逆境に抗う者〟〝滅びを拒む者〟という意味の公式名称を与えたり。彼女はこの支援に深く感謝しつつも、生来温順にして心優しき種族なりしが故に、民生分野における貢献を希望せり。以来、彼女は救い主たる先帝の恩義に報い、また救援の正当性を実証せんとするかの如く、〝未来あるもの〟の育成事業に参加して情熱を注ぎたり。この活動は当初、銀河系中央部(バルジ)において開始されたるが、後には開発途上星域として公式に指定される隣接の円盤部(ディスク)にまで進展し、帝国の拡大と繁栄に貢献せり」 「彼女はまた帝国の専制統治につきても、『直径約十万光年の棒渦巻銀河内に数千億の恒星を(よう)し、その星系群には発展段階の異なる数万の知的種族系列が居住して、各々(おのおの)が勢力拡大を企図(きと)せる銀河系において、直ちに民主的な統一政体を形成することは困難なり』との理解を示したり。然し同時に、その職務上の公式報告において、『銀河系文明の発展による経済・社会生活の向上と大規模化・複雑化・加速化は、それらを調整すべき社会制度・政策の共有化及び分権化を可能とし、また必要とせり。故に、我は文明開発長官として賢明なる帝室及び枢密院の諸種族に対し、臣民が有する諸権利の拡充等、将来予想される社会変化への適切なる対処を要望するものなり』との提言を行い、臣下としての職責を過不足なく全うせり」
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