1 サタンについての抗弁

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「戦後に発見されし枢密院の議事録によれば、とある中枢種族はこの主張に対し、『生物の進化史は、優勝劣敗による自然淘汰の歴史なり。故に、サタンの唱導せるが如き理想主義的手段が存せざる場合、かかる主張は(いたずら)に劣弱なる種族を延命・増加せしむことにより、帝国自体の衰退をも招きかねざる〝機密漏洩行為〟と称すべし』と非難せり。(もっと)も、その後のさらなる調査によりて、この種族もまた内戦を生き延び得ざりしことが判明せり」 「これを知りたる我は、通信による理事種族会議の席上において、『かの種族は帝国政策を決定する要職にありながら、戦争による臣民の犠牲や損失、危険を防ぐ努力を怠り、これを容認せるばかりか、進んで利用せんとさえ主張せり。故に、かくも時代後れの卑劣にして無能なる統治種族は必ずや淘汰さるべきことを、自らの破滅を以て実証せり。誠に天晴至極(あっぱれしごく)な種族なり!』と皮肉を述べたり。然し、これを聞きたるサタンの映像体(アバター)は悲しげに微笑み、『歴史の歩みが異なれば、我等もまた同じ言動をとりたるやも知れざるべし』と語り、我を(いさ)めたり」 「我思うに、サタンは自らの過酷な自然環境との戦いや、先帝によりてその脅威から救われし歴史から、社会的協力により自然の脅威に立ち向かうことを、誰よりも重視せる種族なり。また、彼女は文明開発工学の第一人者として、社会学的知識の豊かな種族なり。ゆえにその〝自然〟には、戦争による淘汰を通じて社会を発展・拡大させ来たるが如き、帝国種族の〝内なる自然〟もまた、当然に含まれたらん。故にサタンは、かかる戦争の歴史において生まれし遺恨や過激性とは、最も縁遠き種族と言うべし」
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