2 アスモデウスについての抗弁

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「然しその後に、中枢種族は発展途上種族内の戦争による淘汰を誘発し、〝優秀〟な軍事種族を育成・獲得すべく、彼女の文明開発計画に対しても非人道的干渉を行いつつある事実が判明せり。この時、彼女の苦悩と同様に我もまた、個体脳及び社会脳の回答の相剋(そうこく)に苦しみたり。中枢種族への告発あるいは抵抗は、関係種族の滅亡を意味せり。論理的には、我が選択肢は彼女に対する沈黙への説得、辞任による一件からの離脱、さらには中枢種族への密告という案さえ存在し、ただ中枢種族への義憤と彼女に対する共感のみがこれを(いな)みたるものなり」 「我等は窮余(きゅうよ)の策として、自らの防衛措置を講じたるうえで、事態の改善を求める公開請願を行いたり。これに対して中枢種族ザフィエルは、先帝名を僣称(せんしょう)し、我等の軍事部門副長官アモンにサタンと我の処刑命令を下したり。アモンはこれに異議を唱えたるも、中枢種族は彼女をも抹殺すべく、その最愛の姉妹種族カイムを派遣せり。両者が戦闘後、共に重大なる損傷を負いて行動不能に陥りたる時、またその戦塵(せんじん)の中に、深き悲しみと事態克服への決意を(たた)えたるサタンの惑星が観測されし時、我が葛藤は消滅せり。即ち、二つの頭脳の結論は一致して調整脳の判断は不要となり、全ての頭脳を唯一の結論、即ち彼女と共に帝国及び我等自身の破滅を阻止するための戦略立案に指向することを得たり」 「我は自らの野心を否定せず。然し、それは利己主義的な野心には非ず。この軟弱なまでに心優しく、自己犠牲的なまでに直向(ひたむ)きなる官僚種族と共に、新たなる統治を実現せんとする野心なり。即ち、今や軍事種族のみによる専制統治に非ずとも、全種族が参画(さんかく)する民主政治を以て、文明国家を営み得ることを証せんとする野心なり。我は、今後全ての種族が抱くべき、かかる野心を罰すべき法律はなきものと確信せり」
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