3(3) 〝皇帝領の戦い〟の正当性

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3(3) 〝皇帝領の戦い〟の正当性

3 四大軍事種族についての抗弁 (3)〝皇帝領の戦い〟の正当性 「サタンによる公開請願の当時、中枢種族達は既に相互の権力闘争から、一触即発(いっしょくそくはつ)の緊張状態にあり。故に請願直後から、彼女達の間では責任の所在を巡り熾烈(しれつ)な非難の応酬が開始され、それは間もなく全面的な武力衝突へと移行せり。バールゼブルの艦隊は先帝を保護し、またその真意を確認すべく、独断で皇帝領に進入せり。既に昂進(こうしん)せる軍事的対立が不祥事の発覚を契機として爆発し、多数の強大な中枢種族が系列下の親衛軍・私兵軍の艦隊を動員して交戦せる宙域に、ただ一艦隊で赴くことは無謀極まる行為なり。然し彼女は親衛軍の本務たる先帝の守護のため、また恩義ある種族サタンに報いるため、そしてかつて自らが従事せる〝汚れたる任務〟の意味を知り、罪あらばそれを(あがな)うため、さらには彼女と愛すべき友好種族グラシャラボラスが共にある帝国の未来を守るため、先帝保護に赴くことを決定せり。彼女は直ちに物理法則の異なる亜空間へ突入し、光速の突破によるチェレンコフ放射の青白き翼を広げつつ、皇帝領へと急行せり」 「皇帝直轄領は、帝国文明の精華ともいうべき宙域なりき。同地においては先帝及び各中枢種族とその系列種族が、銀河系最高の資源と技術を動員し、多数の可動惑星や施設・艦船を集中して研究・生産及び交渉・交易活動を行いたるが故に、中心星域の外縁部と比べれば、あたかも田園に対する大都市ほどの人工的華美に満ち溢れたる世界なりき。然し、彼女が同所で目撃せし光景は、地獄絵図なりき。そこでは既に多数の超新星兵器が使用せられたるも、通常空間内では恒星爆発の影響が超光速で波及することは絶無なり。故にその地獄とは、帝国の最先進種族が他の全兵器も用いて積年の抗争を決着せしむべく、あるいは避難のための物資や移住先を争いて行いたる、相互の殺戮と略奪から生まれし地獄なり。この修羅場においては被災種族の救援も(かな)わず、さながら世界終焉(しゅうえん)の如く正視に堪えざる惨状が彼女の眼前に展開せられたり。然し、旧政権の闇を知りつつその克服に努めたるサタンとストラスや、かつて同様の苦難を経験せしグラシャラボラスより、知識と能力、勇気を得たる彼女は、希望を失うことなく事態収拾の可能性を求め、先帝の捜索及び治安回復の努力を継続せり」 「新技術の超空間駆動機関を有する中枢種族の艦隊が彼女の艦隊を発見し、超新星兵器による先制攻撃を行いし時、最初に彼女を救いたるものは、自動機械(アバドン)による早期警戒網なりき。同機関が恒星の重力場によりて発着点に変動を(こうむ)り易きことを発見せし彼女は、自らもまた恒星を破壊して敵艦隊の航行を攪乱(かくらん)する戦術を着想せり。副司令官アミーの航法演算支援及び同グラシャラボラスの勇戦にも助けられ、彼女は見事に敵艦隊を捕捉・撃破せり。彼女は派生被害を最小限に止めるべく、既に戦乱のため惑星群が破壊されし星系を対象として選択せり。然れどもなお、避難し得ざりし種族が犠牲となりしことは、彼女の心に新たな傷を負わしめたり」 「系列種族による超新星兵器の応酬が制御不能となり、また超空間航法の意外なる弱点が判明するに及び、同航法技術を有する高位の中枢種族群は一時的な休戦協定を締結せり。彼女達はアンドロメダ銀河に逃亡してこれを制圧したる後、同地を拠点として銀河系への再侵攻を実施するべく図りたり」  
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