2 アスモデウスについての抗弁

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2 アスモデウスについての抗弁

「第二に、我アスモデウスの政治的目標は中枢種族との抗争による政権の奪取に非ず、帝国の発展と共に興隆せし産業・経済種族の一員として、帝国形成に功のありたる軍事的統治種族に対し、さらに多くの種族の利益を平和裡に実現すべく、政治的発言権の分与を求むるにありしことは、内戦以前の我に関する帝国の公式記録からも明らかなる事実なり」 「我はまた、かかる権力の行使には重大なる責任を伴うが故に、これに必要不可欠なる知識と経験を獲得すべく、文明開発長官サタンの民政部門副長官の地位を希望せり。当時において彼女はすでに、文明開発工学を中心として他の科学分野にも造詣(ぞうけい)の深き、技術官僚(テクノクラート)種族として知られたり。然し同職に着任後、科学省長官ストラスからも情報を得て状況を分析せし我は、中枢種族間における腐敗堕落と権力闘争が悪化の一途を辿り、もはや帝国内の利害調整を行うべき機能はおろか、国家の統一そのものが危機に瀕したる事実を発見して、愕然とせり」 「帝国の権威を示すべく、固有名称の使用さえ禁じられし〝先帝〟種族は、側近団たる枢密院を構成する中枢種族の政治工作によりて外界から隔絶され、既に名目的な君主と化し居たり。また、各中枢種族はその傘下に多数の下級軍事種族を従えて事実上の独立領を形成すると共に、それら系列種族は領土内外における収奪と代理戦争に狂奔せり。かかる実態は巧妙なる情報操作と陰湿なる恐怖政治、そして分割統治されし各領域の利害障壁によりて隠蔽されたるも、その影響は既に親衛軍の内部から開発途上星域にまで及び、超新星兵器の拡散による軍事的緊張の増大とも相俟ちて、矛盾と対立の顕在化は時間の問題と思われたり」 「然しながら、当時における私的利益と公的利益、また公益のうちでも専制統治の功罪や改革成功の確率につきての均衡を考えれば、我及び友好種族のみで問題の解決を図ることは極めて困難なりき。故に我は、『種族には永遠の敵も友も存在せず』とも表現すべき信条に基づき、この非情なる社会情勢のもとで、まずは一身の安泰を図りて臨機に行動する他に(みち)なしと判断せり」
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