姉貴

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 もともと、姉を引き取りたいと言い始めたのは、母だった。  姉に対する母の同情は表層のものではなく、心から憐れんでいる故に自分も苦しくなっていた程、『近所のおばさん』 という立場だった頃から姉に心を寄せていた。  姉がうちに来てからもそれは変わらず、母は甲斐甲斐しく姉の世話を焼いた。  姉も、それを素直に受け止めていた。  ただ、姉が最もなついたのはその母でなく、父だった。父もそれが満更でないらしく、姉と父の関係は大変良好だった。  私としては、母を思うと幾分複雑ではあったが、その屈託すら母の一言で簡単に雲散してしまった。  母が言うには、姉の父への好意は、元々の父親への好意だということだった。  姉は、自分を放置し、挙げ句捨てていったあのいい加減で無責任なオトコを、今でも慕っているのだと、母は言っていた。  その素直な気持ちが、素直に私の父親へも表出しているのだ、と。  言われてそう見ると、納得できる様子が多々あり、私は悔しくて、切なかった。  姉を幸せにしたいと、心から思った。
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