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ただ、そんな私の気負いは独りよがりな自己満足だった。
姉は自分の置かれた状況にも環境の変化にも戸惑うことなどない様子だった。
父母ばかりか私も大切に扱ってくれ、それどころか『姉』として私を保護し導こうとすらしていた。
ただ、私の幼い同情をあしらうような態度は一切なく、それすら包含する温かさがそこに常にあった。
姉を守りたいと思う私の気持ちよりずっと大きく、ずっと強く、姉は私を守ろうとしていた。
優しすぎる姉も、大声を出すことがあった。私が、母と喧嘩をした時だ。
大抵理由は些細なことだが、日頃の鬱憤が表出するような、八つ当たり的な言葉を私は母に対してつい強く発してしまっていた。
母への暴言を言った側から後悔し、それでも抑えが効かず次々酷い言葉を投げつける、その時。
穏やかな姉が、大きく一声あげるのだ。
それは叫び声のような耳障りなものではない。ただ、ヒートアップしていた私と母の耳の奥にも届く、深い響きの声だった。
姉らしい温かさも感じとれた。
私が思わず視線を向けた姉の瞳は、いつも通り静かに穏やかで、“止めなさい”と優しく私に語りかけていた。
その後、落ち込む私を抱えて慰めるのも、姉の役割だった。
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