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お袋は、そんな親父に愛想を尽かし。
とうの昔に出て行った。
今は、何処にいるかなんて知らない。
そして、俺には捨てた母の事など探す気もなかった。
俺は、先生から常に依怙贔屓されてきた。
先生といえども、結局同じ人間だった。
生まれた頃から、ハーフと間違えられるほど美男子だった上に、頭脳明晰。
そして、財閥の息子として一目置かれていた。
女性達も、俺を見てはキャーキャーと騒いでるのを何度も見た。
しかし、どんなにキャーキャー言われても結局俺には顔も知らない許嫁がいる身だ。
誰かと恋する気など。更々なかった。
俺には、夢を持つことも。
人生の選択肢も何もなかった。
親父は、2度と俺にカメラを持たせないようにカメラをボコボコにして捨ててしまった。
だけど。
俺、本当は知ってるんだよ。
親父だって、本当はカメラが大好きで沢山写真撮ってきた人だったんだ。
あのカメラは、親父の自慢の一眼レフだった。
お袋の若かった頃の写真、親父のクローゼットに沢山あるの本当は知ってるんだ。
だけど、親父は。
多分、カメラを見ればみるほどに逃げていったお袋を思い出すのかもしれない。
「ばかやろう・・こんな、こんなくだらないもの・・」
狂ったように、親父は何度もカメラを投げつけて壊したのだ。
そんな親父の瞳には、涙が浮かんでいた。
鬼の目にも涙とは、まさにこの事を言うのだろうか。
ボコボコに殴られても、何故か俺は親父を嫌いになどなれなかったし、家出する気にもならなかった。
それは、親父が時折見せる深い悲しみの仕業だったのかもしれなかった。
親父は、俺と同じ。
不器用で、気持ちを人に伝えるのが苦手な人間だ。
だから、悔しいけどさ。
俺は、何となく親父の気持ちがわかるんだ。だから、どうしても許してしまうんだ。
夢も、恋も出来ずに生きてる俺。
何の為に、生きてるのか考えた。
そんな頃。
俺は、皆に出会ったんだ。
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