悪い霊

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 頭がおかしいのだろうか。そんな生徒がいるなんてことはいままで聞いたこともなかったのだが。深刻そうな表情で迫られても、まったく危機感のかけらも湧かなかった。二度と会うことも、話すことも無いだろう。そう思って、最低限の愛想すらも置いてけぼりに俺は再び家へと向かって歩き出す。追ってくるかどうかが気掛かりだったが、振り返らずに進んでいくうちに、足音はやがてひとつだけとなっていた。  傾いた陽に照らされるアスファルトの道は変わり映えなく方々に伸びている。自宅へと向かう経路を無意識に選択しながら頭の中で想うのは、先ほどに出会った奇妙な少年のことだった。といっても勿論信じたわけではない。悪霊。蛇。どちらもこのあたりでは見たことが無いものだった。そしてこれからも無いだろうと思っている。17年間生きてきた経験が、初対面の少年の戯言くらいで簡単に揺らいだりするはずもない。――とはいえ、話のネタくらいにはなるだろうか。思わずふっと鼻で笑いながら、背中のリュックを背負いなおす。  冷たい風がびゅうと吹き付け、俺は思わず首を縮める。  無造作な風のたたきつけるような音に混じって、どこかで蛙の鳴き声が聴こえたような気がした。    翌日は慌ただしい朝になった。悪霊の所為ではない。もっと現実味があって、切実で、ありふれた理由だ。  役に立たない目覚まし時計を人差し指でぴんと弾いたあと、一段飛ばしに階段を駆け下りる。目覚まし時計が故障しているのか、それとも鳴ったのを無意識に止めてしまっていたのか。それは判然としないが、俺が定刻に起きられなかったのは目覚まし時計の所為だ。そうに決まっている。     
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