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大晦日の夜
「明、ちょっと明! そんなところでうたた寝してないで起きなさい。紅白見るんじゃないの?」
う……? 俺は上から降ってきた母の声で眼を醒ました。
「お蕎麦の用意できたから」
ハナが俺を踏みつけてこたつの縁に手をかけて立ち上がる。
着たままのダッフルのポケットが、ハナに踏まれた拍子にカサリと小さな音を立てた。
こたつの上には大ぶりの天ぷらが載った蕎麦が漆塗りの雑煮椀の中で湯気を立てている。
俺は母とふたりでアイドルグループのバラバラな声をバックに蕎麦をすすった。
「ねえ」
「何?」
「初詣いかない?」
母が俺を見つめた。
「いいけど。混んでいるところ嫌よ」
「――神社」
「へえ、懐かしいわね。甘酒飲みたいな」
母は一瞬遠くを見るような眼をしてそうつぶやいた。
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