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愛がほしい
地下鉄は地上へあがった。俺は文庫本から目を外すと、首を捩って窓の外を見た。今にも降り出しそうな灰色の空と煮しめたような色合いの町が広がっている。
第一志望の高校に落ちた俺。ワクチンを打ったのにインフルエンザに罹ったせいだ。お粗末すぎて笑いがこみ上げる。
落ち込む俺にアイツは言った。
「何もこの高校だけが全てじゃないわ」
アイツは俺に、あの高校の教育方針はあなたにぴったりだ、あなたを伸ばしてくれるのはあの高校しかない、と言い続けた。アイツの喜ぶ顔が見たいがために、俺はひたすら勉強した。あの高校に入ることは俺の目標であり希望であり全てであった。
あの合格発表の日以来、俺はアイツとほとんど口を利いていない。
絶望にはご丁寧に小さな余録まであった。急遽受けた底辺の学校で俺は完全に浮き上がっていた。何も楽しくない。生きているのがつまらない。
陰惨な思考に落ち込む直前に、車内アナウンスが降車駅の名を告げた。
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