帰りたかった家

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  「大丈夫ですか?」 まだ若い女性だった。鼻の前に手をかざすと、息はあった。よかった。 「聞こえますか。すぐに救急車呼びますね」 俺はスマホを取り出した。圏外。そんなはずはない。この期に及んで壊れたのか? 古いのを無理して使っていたからか。肝心なときに役に立たねえ。 「……う」 女の人が薄目を開けた。 「どこか痛いところありませんか。人を呼んできます」 彼女は右の拳で右のこめかみをグリグリとしながら、首を横に振った。それからゆっくりと半身を起こした。Tシャツの上に薄手のセーター、デニム、ソックスにサンダル履き。この冬空にこの人は何を考えているんだろう。 「……そこ。あたしの部屋」 そう言って彼女は立ち上がろうとしてぐらりと揺れた。俺は慌てて背中を支えた。俺の頬に触れた髪が恐ろしく冷たい。大晦日に面倒は嫌だな。警察に呼び出されて眉を釣り上げるアイツの顔が浮かんだ。弁護士の息子が事情聴取受けるなんてありえない! 声まで聞こえてきた。 「入って」     
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